終わりに。

 

今日が救われるならそれでいいじゃないか

そう自分に言い聞かせて、無垢の琥珀に包まれた綺麗な玉虫色を壊しながら溶けて崩れて縺れていった。きっと大丈夫、春の雪が全ての罪深いはぐれ者たちの足跡を消してくれるよ。またすぐに解けて、もう2度と交わらない事も知っている。だから、4月になったらひとつだけ嘘をつこうと思う。いつかまた会えたら変わっていく私に変わらないあの海の青を教えてほしい。

車窓に映った地方都市と呼ぶのもはばかられる街のひとつひとつが内包する人々の暮らしに飛び込んでみる。皆窮屈さを感じながらこの場所で過ごしているように見えた。隣にいる人間との精神的距離の近さから生まれる気まずさが凝固して蔓延っている。もしかしたら時速260kmで通り過ぎていくこの金属の塊が行く先に思い馳せているかもしれないな。それでも、私は迂闊にもこういった景色にこそ安らぎを感じてしまい、終点になんて着かないでほしいと思った。電車から降りてしまえば私は旅人ではなくなり、日常に連れ戻されてしまう。ああ、いっそこのまま平成と次の時代の間の暗闇に落っこちてしまえばいいのに。年号が変わったところで私の息苦しさは何も変わらず、麻痺した身体での綱渡りは終わらないのだから。次の道がまた途方もない場所まで続いていくのだとしたら、これからの私に必要なのは死ぬ覚悟でも生きる希望でもなく、色々な事を忘れて諦める事なのかもしれない。春の陽気や色づいていく花に騙されて、もともと何か幸せな事があったかのような幻肢痛に悩まさせるのはもううんざりだ。