夏を待っていました

6月の雨は過ぎ行く春を洗い流し夏を研ぎ澄ませていく。小説の一節に描写してあるような爽やかな風など吹くわけもなく、真昼の鮮烈な光線に晒されて額に浮いた汗は頬を伝い空気を切ってアスファルトを溶かした。

 

ドロドロになった地面はアイスクリーム。足を取られた僕はどこにも行けないでいる。少年たちはこの世の何処へだっていける乗り物を立ち漕ぎで、輝く夏の中を加速して遠ざかっていった。そしてもう僕の目には見えない。

 

夏の正体というものを、

いつまでもいつまでも捉えられない。

 

その最中にいるのになぜか懐かしい気持ちになり、思い出の中を生きているような焦燥感。永遠という幻を見せてくれる罠。かき氷シロップを一気に飲みしたような甘さと、その奥にあるほろ苦さの予感。少年少女を大人に変える魔法。

 

遠くで鳴る花火にも、日差しが水面に乱反射するプールにも、入道雲を積み上げた空にも、命を燃やす蝉にも、汗をかいたペットボトルにも、その細部に夏は宿っている。

 

 

それでも、誰も捕まえることはできない。

ただ、その輝きを垂れ流すように享受するだけ。