2020-01-01から1年間の記事一覧

海月たゆたう

生活にポッカリ穴が開いてしまってどのくらい経っただろう。もう喪失した空白の形すら思い出せないなあ。あれだけ読み込んだ本の一節さえ、いとも簡単にバラバラになって色を失ってゆくんだね。ねえ君は覚えていますか? 色とりどりの錠剤が胃に溶けて身体中…

6月1日

かつての常套句を口にする事さえ憚られるようになって、結んだ約束があんなにも脆いものだと気づかされたのはまだ寒い頃の出来事だった。 先延ばしになった、或いは自らそうしてきた物事がモゾモゾと動き始める音がする。ただ、弱虫なわたしはもう少しだけ曖…

作品1

風のさらさら流れる木立の丘に小さな一軒家。 病弱な少女は春の訪れとともに種をひとつだけ植えた。 それはまだ誰も知らない花。 名前さえもついていない花。 咲くかどうかも分からない花。 芽を出した葉は奇跡の色をしていた。 彼女はその小さな苗を育てる…