6月1日

 

かつての常套句を口にする事さえ憚られるようになって、結んだ約束があんなにも脆いものだと気づかされたのはまだ寒い頃の出来事だった。

先延ばしになった、或いは自らそうしてきた物事がモゾモゾと動き始める音がする。ただ、弱虫なわたしはもう少しだけ曖昧なままでいたいと思ってしまうんだ。そのわけはあと一寸で埋まらない隙間に入り込んだ懐かしさや気恥ずかしさだったりして、そんなものは握る手のひらに溶かしてしまえるといいのだけれど。

それさえ叶えることができるならば、私は何もいらないと心の底から言えるだろう。憧れや名誉も、数知れぬ人々の魂に届くようなわたしだけの言葉さえも。

熱いシャワーを浴びたあとの火照った身体を冷ますために窓を開けると、網戸をすり抜けて部屋の中に夏が染み込んできた。夜空を見上げたわたしたちの真黒な水晶に飛び散った極彩色の滴が、新しい約束を結ぶ合図のような気がした。堰をきって溢れ出るその全てをもう一度かき集めて、紺碧の蝶がさなぎからかえるのかどうかを確かめに行こう。