明日

少女は知っていた。翼の生えたブーツを持っていないことを。膨れ上がった自意識を抱えたまま、人間にも、虎にさえもなり切れずに、正しく並んだ真四角の箱の中で生き損なったその先の樹海でまた死に損なった。

 

少女は知っていた。どんな未来も愛せないことを。それは、見ないふりをして引きずってきた情けない過去の上に積み重なっていくものだから。体に真緑の血を宿し、命を前借りして逃げ続けても、いつか決断の日はやってきて黒い明日に飲み込まれてしまうのだ。

 

虫のように光に吸い寄せられてたどり着いた部屋の中で膝を抱えて座り込んだ少女は、バケツの底に黒い悲しみが溜まっていつの日か溢れてしまうのを、擦り切れるほどに見つめることしかできずにいた。

 

それでも、少女は決めていた。全ての悲しみが溢れて流れ出したら、血の滲むような努力で会得した自身の社会性にさえ唾を吐き捨てて水辺に大きな国をつくるのだ。

 

そこには理屈も法律もない。誰の声も届かない。それはそれは綺麗な、彼女だけの宝石。