さよなら宝島

彼は水没都市で暗い少年時代を送っていた。どこにいても息が詰まりそうで、いつも死に場所を探していた。ふとした事がきっかけで彼はノアの方舟のチケットを手にして、いつの日か旅立った。

 

かつての水没都市は時を経て宝島になっていた。幻の宝島にはもう忘れてしまった人の魂が眠っていて、あまいあまいお菓子が手に入り、よく熟れた果実がそこら中に実っている。どこに行ってもみんな彼をもてなし、褒めてくれた。まるで王族にでもなったみたいじゃないか。本当は、行く場所なんてのはどこにもないのに。冠なんてのは錆びついた虚構なのに。

 

ひと休みのつもりが気づけば長い間宝島での生活に身を預けてしまっていることに気づいた彼は、自分に嫌気がさして泣いてしまった。あらゆる繋がりの中では、研ぎ澄ませていた自分の針がなまくらになって使い物にならないのをよく知っていたから。街の底を這いずり回って夜露を啜るような生活の中でしか何かを生み出すことができないことを知っていたから。

 

沈んでいく街で 並んで歩きながらふたりで朝焼けを見たあの夏の煌めきさえも海に沈めよう そうだ それがいい

 

そう言って彼は、暗いトンネルを抜けてまたひとりになった。